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SURの数学 FAQ
フェルマーの大定理ってどんなもの?
命題
n は3以上の整数とする。このとき,xn+yn=zn となる正の整数 x, y, z は存在しない。
鑑賞
この命題の意味はすぐにわかりますね。ただ,
- n=1, 2の場合
- x, y, z として0や負の整数も許す場合
- x, y, z として正の実数も許す場合
には,すぐに反例を作ることができるので,キチンとそれを省くように述べないといけません。
特に,n=2 の場合は「3辺の長さが整数の直角三角形」は無数にあります。「3,4,5 」と「6,8,10」のような相似なものは考えないことにしても (すなわち, 「x, y, z の最大公約数は1」という条件を付け加えても) なお無数に存在するのです。たとえば,正の整数 m, n に対して x=m2-n2, y=2xy, z=m2+n2 とおけばよろしい。
しかし,この命題が主張することは「nが3以上のどんな整数の場合にも,このような正の整数の組は決して存在しない」ということです。ものすごく強い主張ですね。
時代背景
講談師 見てきたような 嘘を言い
なんて古川柳があるそうですが,それでもやってみましょう。Pierre de Fermat さんは1601年8月に,フランスはトゥールーズの近くに生まれ,トゥールーズ大学で法律を学んで弁護士となりました。
ちょっと待て,と思われたあなた。この時代,「数学者」という職業で生活していくのは非常に大変だったようです。Fermat さんは地方議会議員の仕事をして生活していくかたわら,余暇に数学を研究していたとのこと。
これまたこの時代に特有のことではありますが,彼は他の数学者に手紙を書いて,自分の発見したことを報告する (自慢する?!) のですが,証明方法は手紙に書かないのです。通信手段があまり発達していないので,「これは自分が最初に発見したんだ」と証明するのが難しいからではないでしょうか。
結局,Fermat さんの業績は,知り合いの数学者の許に届いた手紙たちと,遺品として残された本たちから推測するしかないのです。
それから
彼は,本を読みながらその余白に考えたことを記す習慣があったらしいのですが,所詮余白なもので,これまた証明はほとんど書いてないんですね。結局,オイラー(1707‐1783),コーシー(1789‐1857) をはじめ,18〜19世紀の数学者たちが厳密な証明を考えていくことになったのでした。
そうして Fermat さんの謎が順々に解き明かされていく中,最初に述べた命題が残ることになったのです。しかも,余白の書き込み曰く
私は驚くべき証明を見つけたが,その証明を記すにはこの余白はあまりに狭すぎる。
というわけで,余白に書ききれない証明を探すべく,数多の人が努力を重ねたのであります。n=3 とか n=4 の場合はそう難しくなく証明できるのだけれど,「3以上の自然数」は無数にあるので,このままの方針では難しいでしょう。一方,反例を見つけてやろうとした人も,ことごとく失敗に終わったのです。
かくして,「この命題はどうやら正しそうだ。しかし,証明はできない」というのが数学者の共通認識となり,この命題のことを「Fermat の大定理」とか「Fermat の最終定理」と呼ぶようになったのです。
ただし,数学の世界の約束では,ちゃんと証明されたことを「定理」と呼びます。したがって,これは正確には「フェルマー予想」と呼ぶべきでした。
解決へ
Fermat さんが書き込みをしたのは1637年ごろ。それから350年以上も未解決のままだったフェルマー予想ですが,近年まで,「フェルマー予想が解けた!」という噂が,年に1度くらいは世界のどこかから流れてくるという状態でした。
「証明した」のはプロだったり,アマチュアだったりしますが,その度にその「証明」の不備が指摘されるので,ほとんど「狼が来た!」状態であります。逆に言えば,この問題がそれだけ多くの人たちの関心を引きつけていたということでもあるのですが。
しかし,1993年の6月に,アンドリュー・ワイルズが「解いた!」と宣言します。やはり一度は不備が見つかるのですが,1994年の9月にその不備が埋められてしまいました。
その後,1995年2月にこの結果をまとめた論文が受理されて,「フェルマー予想」は名実ともに「ワイルズの定理」になりました。
とはいえ,もとの名前があまりに有名すぎたので,今のところ「ワイルズの定理」と呼んでいる人はほとんどいないのが実情です。このタイトルも「フェルマーの大定理」ですし…
こうして,350年来の未解決問題は幕を下ろしたのですが,その証明には現代数学の最先端の結果がいろいろと使われていて,そのすべてを理解できる人は非常に少ないそうです。もっと簡単な証明が見つかればよいのですが。(yosi)